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「春一………君」
マリアルが何かを言う前に、春一はどうやら忘れてしまったらしく、マリアルの涙を優しく拭きながら、「どうした?」なんて聞いてきた。
心配そうな春一の口調は、やっぱり春一で、マリアルは少しだけ元気を取り戻した。
「ううん、なんでもないよ」
爽やかに、彼女は微笑む。
それから2週間は、おおよそマリアルにとっては地獄の始まりだったのかもしれない。
一人では出歩く事すら不可能になり、帰れなくなった春一を何度もマリアルは迎えに行っていた。
その度にディープブルーの髪を持つ青年に「………差し入れだ」とアロマをもらっていた。春一の友達だと知ったのは随分お世話になった後だったが。
もちろん、お風呂もマリアルが入れていた。
わからないのだ。シャンプーだとかリンスだとかの類いが『食べれる』のか『飲める』のか『危険な薬品』なのかが。
もちろん最初は抵抗していたが、だんだん慣れてきたらしく、夫婦の絆だとごまかしたマリアルのかいはあったのかもしれない。
職場からも連絡が届き、『誠に残念です』と、春一の先輩──たしか木野優芽だとかいう人から電話があった。
詳しい事情はあまり話さなかったが、『………わかりました』とだけいうと、涙をこらえたような声を漏らし、通信切ったようだった。
もちろん春一にもその話をしたが、ぼんやりとしか思い出せないようで少し混乱していた。
「そっか………うん」
携帯電話を春一は握るが、それから先の行動に移せない。
わからないのだ。
どれがどんな機能がありりりり出来る弟機留デ樹琉ルルルルのかがぁああああ
変換変換変換変換変換変換変換すべて変換すべて変換変換変換変換
変
変
へ
「あれ?」
携帯電話の操作を思い出す間に、春一は『何故携帯電話を使おうとした』のかを忘れてしまった。
堂々巡りである。
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