「……春一君。私はね、後悔なんかしてないよ」【完結】

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「はい、春一君、あ~ん♪」 「うん」 もちろん、食事も一人ではとる事は出来ない。 前にも記した通り、『食べれる』か『食べれない』かが全くわからない。理解ができない。 気がつけば石鹸を食べてしまったこともあった。 マリアルは泣きながらそれを止めてくれたが、もちろん春一には意味が解らなかった。ただマリアルが泣いていたから止めた。それだけのシンプルな考えなのだろう。 「あ……………」 つつ、と春一の顎にコーンスープが垂れた。 もう顎やら舌やらを動かすという機能すら麻痺しかかっている。本能でしか、微かにわからない。 だらり、とコーンスープが涎掛けに垂れた。 涎掛け 馬鹿になった口 もう味だってわからないのだ。 「ふきふき~」 「……………」 「はいっ♪綺麗だよ♪」 つつ、と今度は涙が流れる。 流れる。 流れる。 「ごめん…………ごめんなさい」 「もう、謝んないでよ。これぐらい………」 「まださ、30にもなってないし……結婚して……少ししか経ってないのによ……………こんな………こんな介護生活………あんまりだろ」 「…………………」 瞳を手で隠し、涙を流す春一。 マリアルの為に涙を流す春一。 きっと彼はこうだから、こんな性格だから──アルツハイマーになってしまったのかもしれなかった。 でも、彼がきっとこうだったから…………好きになったんだろう。 「春一君」 「……………」 「大好きだよ。──これ以上、言葉は要らないよね」 「………くっ…………うう……………うぅううううぅ!!!くっ!」 とめどない涙。 きっと春一は悔しいのだろう。 迷惑をかけてしまう自分に。 覚えることすらできない自分に。 あれほど大好きだったリゾットを食べれない自分に。
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