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「くそ……………うぅううううぅ!」
「大丈夫……大丈夫だよ、春一君………」
マリアルは優しく春一を抱きしめる。
マリアルだって泣き出したい立場だけれど、そんな事はできない。
絶対にできないのだ。
さらに2日たったある日、 春一はすごくイラついていた。
さっきから何度も何度も舌打ちをしては、携帯電話を開いたり閉じたり、しきりに時計を確認していた。
………どうやらアルツハイマーという病気になると、嫉妬心やら猜疑心がかなり高まるようだった。
春一の怒りはまさにそれで、矛先はもちろん、マリアルに向いたのだ。
「ふぃ~、とりあえずお風呂掃除したよ。じゃあ一緒に───」
「おい」
「──え?」
自分でも驚くほど冷徹で低い声を出した春一は、怯えた目をするマリアルの腕を強引に掴むと、ソファーに乱暴な動作で放り投げた。
それにより、かけていた時計が落ちて、春一の足に当たり、ガラスの破片を飛び散らせながら、血が噴き出る──
「は、春一…君?血が……………」
「黙れ」
再び冷徹な声だった。
「どこに行ってたんだよ」
「え?……あの……お風呂掃除──」
「……嘘だ!!!」
まるで虎が吠えたかの様な剣幕に、マリアルは身を震わせる。
「どうせ他の男の所行ってたんだろ!!?あぁ?!」
「そ、そんな訳ないよ!私はっ……」
「黙れよ黙れ!そんなに他の男がいいかよォ!なぁ!」
「信じてよ!はるい───」
ゴッ
と、春一の拳がマリアルの頬骨を捉えた感触が春一の手にダイレクトで届く。
「あ…………はるい………」
マリアルはしばらく頬に手を当てて春一を見ていた。
「俺より……そんなに他の男がいいのかよ………!ちくしょぉ………!」
「春一………くん」
マリアルの呟きは届かなかった。
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