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「君、竜騎士になったんだね! おめでとう! さすがはタニヤザールの息子だよ」
喜色満面で近づいて来る相手が手を差しだしたので、立ち上がったヴァルドは取りあえずそれに応えて首をひねった。
「それは、どうも……で、お前さんは誰だっけ?」
「忘れてしまったかい? 君はたった二年しかいなかったから、無理はないけれど……」男の顔に気弱そうな苦笑が浮かぶ。「君と寮の同室だった、ロジェード・バルコロル・デスタ=コレだよ。宿題を見せ合ったり、おやつを分けあったりしたじゃないか」
カラックは長い腕を組んで、眉間に皺を寄せて唸った。
「名前に心当たりはないが」ちらりと相手の顔を見る。「そのデコと出っ歯には覚えがある」
「……印象に残っていてくれてありがたい」
相手に浮かんだますます情けない苦笑を気にもせず、カラックはここぞとばかり笑顔を向けた。
「ちょうどいい、お前さんからもこいつに言ってくれ」ついさっきまで完璧に忘れていたことなど棚に上げ、気安くロジェードの肩に手をかける。「タニヤザールのお陰で、どれだけ俺が苦労したか。同輩、先輩から三日に一度は罵られ……」
「五日に一度は、彼らを片端から殴り返して回っていたってことをかい?」
ヴァルドの喉元がひくつき、奇妙な音をたてた。
「で、ひと月に一度は、君の御義母上が監督官に呼び出しを受けていたねぇ。いや、懐かしい」
ミティレネ夫人が竜法院で覚えた肩身の狭い思いは、どうやら夫のせいだけではなかったらしい。アシェルは込み上げる笑いを必死で耐えたが、頬の震えを押さえる術はどこにも無かった。
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