第1章~冬の海~

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夢を見た。高い熱にうなされながら、いつも見る夢を今日も… 小さな私と泣いている愛ちゃん。 母さんが「必ず迎えに来るから」と私達を抱きしめてくれる。 「いやだ!いやだ! ママ一緒にいくよ!」愛ちゃんが母さんの右腕を引っ張る。私も「ママ、ママ行かんといてよぉ」と左腕にしがみついて、引っ張る。 その時、母さんの両腕がスポンと抜けて 大量の血が吹き出した。「ママ…?」 私は母さんの顔を見るが、それは母さんではなく、無表情のマネキンだった。 両腕のない血まみれのマネキンは起き上がり私達を追いかけようとする。 怖い、怖い! 「いやあ、ママ!愛ちゃん!怖いよぉ」 ハッと目を覚ます。 また、母さんが出ていった日の夢… 悪夢と熱で汗びっしょりなのが気持ち悪い。 枕元の携帯の時計を見る 。 今、夜中の二時を回ったところだ。利佳子からメールが入っていた。 「はるるる。熱はどうですか?日曜日のごミサで会えるかな?今日の授業はノート取ってあるからね。おやすみなさい」 可愛い絵文字とデコメで彩られたメール。私は絵文字は殆ど使わない。利佳子の女の子らしいメールで、さっき見た悪夢の余韻は消えた。心が少し明るくなったようだ。利佳子は偉大だ。 体がだいぶ軽い。熱はかなり下がったみたい。体温計は居間の薬の入っている、箱の中にある。シャワーも浴びたいけど、父さん帰ってるかな? そうっと部屋を出て 玄関の父さんの靴を確認する。黒い革靴がきちんと揃えられている。 「帰ってるんやね…」私は物音を立てないように、体温計を 箱から出した。喉も渇いた… シンクの豆球だけつけて、由実さんが用意してくれた。ポカリをグラスにつぐ。 ピピッ、体温計がなった「36℃8分」まで下がっている。 ポカリを一気に飲み干した。 「あーちょっと生き返ったな」 シャワー浴びたら、父さん起きちゃうよね。 居間に詰まれた渇いた洗濯物から、オレンジのTシャツとパジャマを引っ張り出し、グラスを軽く洗い、体温計をそうっと戻して部屋に戻る。 タンスからバスタオルを出して、裸の上半身をさっと吹いて、着替えを済ませるとだいぶすっきりした。 カバンの中から化粧ポーチの中の鏡を取り出す。 貼ったままのバンソウコを外す。「いたっ…もう…」 目の上にあった青いお化粧は、紫色に変色しやや黄色がかった皮膚と混じり合ってなんとも言えない色になっている。
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