第1章~冬の海~

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「高性能やで。これがあれば、うちは安心や」 ん…父さんの嬉しそうな声で目が覚めた。目覚まし時計は12時を少し過ぎたところだ。熱があると、由実さんから聞いたのだろう。さすがに起こしには来なかったようだ。 父さんが話しているということは由実さんは夜勤から戻って来ているんだ。寝なくて大丈夫なのかな。 喉も渇いたし、お腹もすいた。パジャマに紺のカーデを羽織ってキッチンへ行った。 「おはようさん。熱あったんやって?大丈夫か?」不気味なほど優しい父さんの声。「うん、熱はかる。だいぶいいよ。」 「晴ちゃん、おうどん食べへんかったんやね。もうのびのびやし何か作ろうか?」由実さんは夜勤明けなのに、さほど疲れているようには見えない。ただ、言葉の元気さとは裏腹に 、顔色が真っ白だ。 もともと色白で、ファンデーションの一番明るい色でも浮いてしまうから、化粧品選びは大変だと言っていた。 でも、今日の白さは明らかに化粧品の白さではない。 「顔色悪いですよ… おうどん作ってくれたのにごめんなさい。疲れてるんやろうから、あたし自分でなんか作りますよ」 「あ、気にせんでいいんよ。顔色悪いかなぁ。リップ塗ってないからね。ラーメン作るからね。それでいい?とりあえず晴ちゃん熱はかりなさい」 「あ、はい…」 体温計を挟んだまま 電話の前で、何やら ゴソゴソやっている父さんを見る。 「何してるん?」 「これなぁ。昨日頼んでたもんをつけてるんや」 「何もらったん?」 「逆探知装置や。警察が使ってるやつなんやで。家族を守らんといかんからなぁ」 …頭がクラクラする。逆探知装置?うちの電話はNo.ディスプレイだし、非通知は 表示されるから取る必要もない。 そんな逆探知されるような事件がそうそう起こるわけもない。 「父さんさ、それって必要なん?」 「当たり前やないか。お前が誘拐されたり、由実が脅されたり、愛が福岡で何かあったら困るやろ」 あっけらかんと父さんは言うが、私を誘拐するメリットがあるとは思えないし、 万が一何か起これば、警察の方が早く動いてくれると思うのだけど… 「ラーメン出来たよ。晴ちゃん、体温計挟んだままやないの。」 由実さんが丼を私の前に置いた。 「36.8分です。いただきます」 「もう大丈夫やね。もう1日だけ風邪薬飲んでおいてね」 ラーメンを、啜りながら、今日の2人がヤケに優しいのが不気味と思った。
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