第1章~冬の海~

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第1章~冬の海~

泣いて泣いて、いつの間にか眠ってしまった。波の音で目が覚めた。 「7時半か…」夜明けの柔らかい光が部屋を満たす。 もう一度鏡を見る。 朝の光の中で見た私の顔は悲惨そのもので、お化けのようだ。うんざりする。 今に始まったことではないけど。 よろよろと立ち上がって、窓を開けようとした時だ。 「晴香!何時やと思ってるんや!」マンション内に響き渡るんじゃないかと思うような声がする。 私は油断していた。 学校に行くならもう 家を出ていなければ いけない時間。朝ご飯は6時半厳守。朝のお祈りも家族揃って 食卓でやるのだ。顔の傷で、今日は学校に行かなくてもいいやと思ってしまっていた。 「何してるんや!」 父さんが私の部屋の扉を狂ったようにノックする。 「ちょっと、待って 今、行くから」 と言い終わらない中に父さんが入ってくる。 「…その顔、どないしたんや…」 さすがの父さんも愕然としたようだ。証拠が残ると困るから 普段ならば、顔は殴らないから。でも昨日は… 「転んだや!な、何か言われたら必ず、転んだっていうんやで!」 「こんな顔で学校行ったら、怪しまれるだけやん!あたし、今日は学校休む!」 「お前、俺に逆らうんか!」 果てしない言い合いが続きそうな所を、 キッチンから由実さんが「パパ、仕事に遅れるよ。晴ちゃんは朝ご飯食べないんやったら自分で片付けて」と声をかけた。 父さんは舌打ちして 「由実に感謝せいよ 」と言って玄関へ走った。 「晴ちゃん、私も今日日勤なんよ。もう出なアカンから…」 由実さんが重そうなカバンを肩にかけて キッチンから出てきた。 「…その顔…パパ… 昨日…酔ってはったから…あの…」私の顔を見ていいにくそうに下を向いている。由実さんはこの街の人工島にある病院の看護師だ。 3年前、父さんの離婚が成立してすぐにこのマンションで一緒に住むことになった。 「大丈夫です。学校行くし、何か聞かれたら転んだっていいますから。」 父さんの言葉を暗唱する。 「そう。なら構わんけど。パパだけが悪いとは私は思わないしね…。」 由実さんは苦手だ。 はっきり物を言うから。私は何も言いかえせなくなってしまう。 「鍵は閉めていくから、由実さん仕事行って下さい。遅刻しますよ」 由実さんは私をきっと睨んで、仕事に行った。
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