第1章~冬の海~

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ガランと静かになった家にキッチンからの時計の音が響く。 「うわ、8時半近いやん。遅刻やなぁ。」 学校なんて行っても行かなくても、私は別にいいし、遅刻すると「遅刻証明書」を書いて、それが5枚貯まるとシスターが 家庭訪問する。私は今月入ってまだ書いていない。 顔急いで洗って… いや、このままで行った方が「転んだ」ことのリアルさが増すかもしれない。家で行われていることは言うわけにはいかないのだから。 私は部屋の大きなミラーで制服のタイを結び直し、髪の毛を 後ろでひとつにくくり、教科書についたグロスを拭き取ってカバンに詰め込む。 グロスをほんの少し唇につけて伸ばす… 大丈夫。これくらいならシスター達もわからないはず。 荷物を抱えて、外に出る。海釣り公園の横を小走りしながら 駅へ向かう。 冷たい空気が肺の中一杯に入ってくる。海の匂いを含んで、冬が私の町にまたやってくるのだ。来月は私の16歳の誕生日 …
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