第1章~冬の海~

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学校までは、私鉄電車で一本。「動物園駅前」で降りて、後は延々と続く坂を上がる。「動物園駅前」についたのは九時 過ぎ。朝のごミサどころか既に授業は始まっている。 長い長い坂を上がりきると、木製の大きな看板「聖母園女学館・高等部」の文字が見える。幼稚園から4年制大学まで全て揃った、この街ーK市内の中で一番歴史の古い学校。K市の女の子達の中では、制服の可愛さとお嬢様っぽい雰囲気で一番人気だそうだ。 だけど、高等部からは外部入学を取らないから、幼稚園~中学受験はものすごい倍率だという。 中等部と高等部をつなぐ校庭に、フランスのルルドという泉を真似た白い手を合わせたマリア様がおられる。 さっと、十字を切って合掌し、一礼して 職員室に足を向ける。 校内はさすがにシーンとしている。 職員室の扉を少し開けて、担任のシスター秋津がいるかを確認する。 「井上さん」後ろから声をかけられた。 数学担当のシスター・マリア・ヴェロニカが微笑んでいる。 「どうしました?井上さんが遅刻は珍しいですね。あら…井上さん?お顔どうされました?」 私は慌てて「坂を登っている時に転けてしまいました!大丈夫です!大丈夫です」何が大丈夫というのか、早口でまくし立てた自分が恥ずかしくなった。 シスター・マリア・ヴェロニカは大きな目をさらに見開いて 私を見ている。 「やっ…あの…その…遅刻したから…証明書を…」 「ちょっと待ってて下さい」シスターは 職員室の中に入ってしばらく出てこなかった。 グロスがバレちゃったかな…はぁ…。 変わりに出てきたのはシスター・秋津だった。シスターも私の顔を見て「井上さん、授業より先に保健室ね」と微笑んだ。 気がついたら、保健室の天井が見えた。 私はどうしたんだろう。 保健室の担当、シスター・木ノ下から私が職員室の前で倒れ午後まで目を覚まさなかったこと を告げられた。今、3時半…ずいぶん眠った。 「本当に、その顔といい、あんた最近おかしいよ。ちゃんと寝てる?」利佳子が心配そうに私を見る。 利佳子―田中利佳子は、授業が始まっても姿がない私に何かあったんじゃないかとシスター秋津に聞いたが、その時間は私はまだ到着していなかったし、携帯は 朝のごミサの後、授業終了までみんなシスターに預けないといけないからメールも送れずにいた。
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