第1章~冬の海~

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マンションの5階まで階段で登って、「ただいま…」と玄関のドアを開ける。キッチンの方からおでんの匂いがする。 父さんは、市役所勤務だから帰りは早い。遅くなっても8時には帰ってくる。 「そやからな、俺が 教えてやったんよ。 」 「へぇ、パパでも人に教えることがあるんね~」 「やかましいわ。ほんでな…」 父さんと由実さんの楽しそうな声が聞こえる。父さんはもうだいぶ出来上がっているようだ。 キッチンに挨拶に行かないとと思いながらもなんとなく邪魔するようで、気がひける。制服着替えてからでいいかなと部屋に入ろうとした時 「晴香?晴香帰ってきたんか?」父さんが私を呼ぶ。 「あ、ごめんなさい。今、帰ってきました。」 言い終わらない内に 父さんが部屋の前までやってきた。 「帰ってきましたと 何で、キッチンに挨拶に来ないんや?お前は由実がご飯を作ってくれているのに 感謝の気持ちも持てないんか?どうなんや?」 声のトーンは低いが私が口答えすれば、あっという間に父さんは爆発するに違いない。 「ごめんなさい。ちゃんと顔出すべきでした」 「それを由実に言え!」 キッチンに入り、由実さんに「ごめんなさい」と謝った。 「別に、ありがとうなんて期待してないからいいんよ。それより早く食べて」 なんなんだろう。本当に… 制服を着たまま、夕食の席についたが、ちっとも味がしない。 さっさと食べて食器を洗って部屋に戻ろう。 「晴香、携帯使いすぎ違うか?」 振り向けば、私のカバンから携帯を出し 料金チェックを父さんがしている。 「だって、今月2000円も使ってないよ。 毎月5000円になったら止まるんやから」 口で答えながら、手は食器を洗っている。面と向かえば何を言うかわからないくらいイライラしていた。 「勘違いすんな!携帯を持たせてるのは親に内緒でお前が何をするかわからないからや!犯罪防止や!」 酔って絡んでくることほど面倒くさいことはない。黙って食器を拭いていた。 「高一にもなって、親の責任とか別にいいんやない?晴ちゃんが手に追えなくなったら美幸さんに預けたらええんやない」 美幸は母さんの名前だ。由実さんは淡々と明日のご飯何がいい?と同じような口調で話すのだ。 「母さんだって、一人の生活で精一杯ですよ」 私も淡々と返す。 「由実、無駄や。こいつには何言うても届かへんで。ああ、そうや」
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