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泣き声に目を覚ます。
何?
またパンツに鉤裂き作ったの?
私の問い掛けに、彼は答えない。
大丈夫、また私が縫ってあげるから。
そう言うと、彼が嬉しげに笑った。
でもまだ泣き声が聞こえる。
私を呼ぶ声も。
私、彼に名前教えてない筈。
そんな事を思いながら目を開くと、そこには姉二人の姿。
そして両親。
みんな泣いている。
私は何故みんなが私を取り囲んで、しかも泣いているのか、まるで分からなかった。
身体中に痛みが走る。
その痛みが、私に現実を教えてくれた。
学校の屋上から宙を舞った私の身体。
そのまま私の意識も、宙を舞う筈だった。いや、舞っていたのだろう。
では、あの幼さの残る鬼は幻だったのだろうか?
私は家族の顔を見る。
私を案じてくれている顔。
私が助かって、心から喜んでくれている顔。
そこに嘘は無い。
暫くして、私は真新しい、私だけのパジャマを着て、ベッドの端に腰掛けていた。
身体の節々がまだ痛むが、大分動けるようになっている。
私はパジャマのズボンを下ろした。
私の左の腿の辺りに、彼のパンツの鉤裂きと同じような模様の傷痕が残っている。
私は彼のパンツを思い出し、クスリと笑った。
真新しい鬼のパンツを履いた少年が、そんな私に笑い返してくれたような気がした。
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