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「諸君、傾注せよ」
クロイツの言葉に、総員が顔を上げ、注目した
「なぜ、そんなにも沈痛な表情を浮かべることがある。緊張か?恐怖か?不安か?」
その問いに、答えは返ってこない
「問おう。なぜ緊張する?なにを恐れる?なにが不安だ?……かつてない戦闘だからか?自分が死ぬかもしれないからか?我々が敗北するかもしれないからか?」
誰もが複雑な表情を浮かべる。エリスだけは、ただ真剣にクロイツの言葉に耳を傾けているが
「戦闘の規模が違うだけで、実力を発揮しかねるのか?我々は、自らの死を恐れるような矮小な者であったか?かつて我々特務小隊が、任務に失敗してきたことがあったか?」
一言一言を、噛み締めるようにゆっくりと話す
「全て、否だ。だとしたら、一体何を恐れる?」
その言葉に、ヴェデルニコフが反応した
「隊長は……恐れないのですか?戦争や死を…」
「戦争屋が戦争を恐れて何が出来る。我々は、軍隊は、それが本分。本来の務めであり、責務、それが出来ないのであれば、軍人でいる資格はない」
「ですが……多くの友軍が死ぬのですよ?」
「死者の出ない武力衝突など、古今例はない。それを、致し方ない、の一言で済ませるつもりも、ない。この国は、これまでも多くの血を流した、その上で成り立っている。だからこそ、友軍の死は受け入れねばならない。この国を形作った英霊に顔向け出来るように。彼らの死の上に成り立つ国だと、自覚しているならな」
「ですが……やはり、死ぬかもしれないと思うと…」
「死を恐れるのは、人間の、生物の本能だ。だが、それを押し殺さなければ、戦争屋は務まらん。銃を撃つ者は、撃たれることもまた想定しなければならないからだ」
「では隊長は、死を恐れないと?」
「覚悟しようがしまいが、死は平等に訪れる。ならば、そんな覚悟なんぞハナから必要ない。ならば必要なのは、なんとしても生き続ける覚悟だ、違うか?」
その言葉に、再び沈黙が訪れた
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