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だが今度はさっきとは雰囲気が違った。皆、クロイツの言葉に思うところがあったのだろう
「緊張するな、恐れるな、不安になるな、などと理不尽な命令をするつもりはない。それが人間の本能に基づいた感情である以上、他人である私に抑制出来るものでもない、だから……」
クロイツは一呼吸置いてから、命令を下す
「私が一つ、命令を下すとするならば……生きろ。何が何でも、だ。無様な姿を晒そうが、生きろ。世は、生きた者達によって動かされる。生きた者達だけが、世に動ける。死人に口はなく、動かせるものもない。お前達が、この戦争で大陸がどう変わっていくか見届けたいならば、世に生きた証をより多く残したいなら、生きるより他、ない。私は、他者の思惑によって引き起こされた事態のために、命を捨てるなど、真っ平ごめんだ。お前達は違うか?」
「いえ、私も、こんな事で死ぬなど、ごめんです」
真っ先に返答したのは、エリスだった
「私はまだ、やりたいことがあります。隊長と二人で、ですが」
あぁ、そうだろう
結婚式を挙げようと約束もしているのだし、どちらか片方でも、ここで死んではそれも叶わない
「そうですね………」
次に声を上げたのは、ヴェデルニコフだった
「我々は今まで、散々動かされ続けてきました。我々の意志に関わりなく、他者の思惑によって。最後の最後まで、そんな人生だなどと、言われてみれば納得出来る訳がありません」
それを皮きりに、次々と同様の言葉が聞こえてきた
そう、特務小隊はいつだって、命じられるがままに動いてきた。国家の為だと、つまり、他者の為にだと
「諸君、我々の人生は、我々のものだ。自らの意志を以て行動したいというのなら、先ずは自らの意志で生き抜け。死ねと命令されて死ぬような、つまらん人間になどなるな。我々がどう生きて、どう死ぬか。それさえ他者に決められた人生など、何の価値がある?」
自らの人生を、自らの為に
それは至極当たり前なのに、いつしか忘れていた
「さぁ、生きる覚悟は決まったか?」
そして全員が力強く頷く
「ならば、諸君、他に何か恐れるべきことがあるか?」
「強いて言うならば…」
ハイゼンベルクが、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った
「隊長の奥様の凶悪振りですかね」
先程の折檻で、一番厳しかったのが、エリスだった
その後、再びハイゼンベルクがエリスによって制裁を受けたのは、言うまでもない
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