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クロイツ達を乗せたヘリは、友軍との合流地点、東カーライナ軍港へ向かっている
東カーライナ軍港は、ルーウェイの南東に、北向きに突き出るようにあるカーライナ半島の東岸にある、海軍の本拠地だ
途中、眼下に燃え盛る車列が見えた
恐らく、第109特殊戦術中隊と、それに追従していた将兵だろう
クロイツは、しばし瞑目して、冥福を祈った
彼らは、かつての友軍
あまりに一方的な、虐殺とさえとれる死に様に、心が痛むのが分かった
一昔前の自分ならば、歯牙にもかけなかっただろう
クロイツはそんな気持ちを振り払うかのように、言葉を発した
《総員、傾注》
無線を通しても伝えられた指示に、機内は緊張感に満ちた雰囲気に包まれた
《これより我々は、表舞台に立つこととなる。最早、偽りの名を語る理由もない。支給されたドッグタグの着用を許可する》
その台詞に、僅かなどよめきが走る
皆、そのことを気にしていたのだろう
唯一心許せる戦友達、その彼らに、自らの本当の名を名乗ることが出来ない
戦場、職場、そしてプライベートでさえ、割り当てられた識別表記で呼び合わなければならない
それは、やはり心苦しいものでもあった
《隊長、マカロフです》
《なんだ?》
《私の名前を、よろしければ隊長にお覚えして頂きたく思うのですが》
マカロフがそう無線を使ってクロイツに言うと、次から次へと「自分も」「私も」と言ってきた
正確には小隊総員が、だ
《…分かった。ならば、総員の名を聞こう、ただし、時間があまりない、手短にな》
そう言ってから、隊員達の名を一文字たりとも聞き逃すまいと、クロイツは意識を集中させた
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