舞踏会~ラストダンス~

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「それに、例え友軍が来ようが来まいが、我々には後退も停滞も有り得ないはず。ただ、成すべきを為す、それだけです。我々はそのために、こうして足を揃えて進んでいるのですから」 クロイツの顔に、不安や悲嘆の色はない しばらく黙り込んでいたラーゲルクヴィストも、一度溜め息をつくと、開き直ったような表情を浮かべた 「そうだな……我々は、もはや選んでしまったのだからな、この道を…………嘆こうが喚こうが、ルーウェイが動員出来る戦力は変わらん。ならば、それをどう使い、どう勝利するかを考えるより外ない。中佐、貴官のお陰で、いよいよ私も腹を括れた。感謝しよう」 「いえ、私こそ、知ったような口ばかり、不快に思われましたなら、謝罪致します」 「いや、貴官のそれは「知ったような」などとは言わん。実際に「知っている」のだから。我々と敵の戦力、戦う意義、軍人としての心構え……成る程、その年で中佐になるだけはある」 「恐縮です」 「さぁ、ではそろそろ戻ろう。お互い、多くの部下を待たせている身の上だろう?、これから死地へ赴く将兵を激励するのも、指揮官の務めだ」 「閣下、本官と本官の部下達は皆、死地に行くなどとは思っておりません」 クロイツのその言葉に、ラーゲルクヴィストが興味深そうな表情を浮かべた 「ほぉ?……では、どこへ向かっているのか、貴官と、貴官率いる精兵達は」 クロイツはそこで初めて、この空軍元帥の前で(悪戯っぽい)笑みを浮かべ、こう言った 「史上最大の舞踏会です」 そしてクロイツは敬礼し、踵を返して歩き始めた 最愛のダンスパートナーを引き連れて
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