舞踏会~ラストダンス~

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副官である若い女性士官を引き連れて、その場を後にしたクロイツを後ろから眺めながら、ラーゲルクヴィストは嘆息していた 『よくもまぁ……こんな戦争を舞踏会などと………いや、だが彼らにはまさに、晴れ舞台なのかもしれんな…』 ラーゲルクヴィストも、仮にも空軍最高司令官にして、この国の中枢を担う人間の1人 特務小隊の存在については知っていたし、彼らが裏方役にしかなれなかったことも当然知っている どれだけの活躍をし、功績を打ち立てようとも、表の歴史には決して記録されない最強の部隊 名を捨て、名誉も得ず、ただひたすらに国家の為にと信じている者達 きっと特務小隊の彼らのような人々を、愛国者と呼ぶのだろう 別に、国の為に戦っている、という訳でもないのかもしれない だがその行いはまさしく、国家への忠勤に他ならない そんな彼らが、いよいよ、表舞台へと立つのだ 輝かしい陽の光を浴び、この国における最精鋭の部隊として先陣を切り、各国の精兵を率いて進んで行くだろう 迷わず、躊躇わず、臆さずに そんな姿を思い浮かべ、ラーゲルクヴィストはふと笑みを零した 『成る程……確かに、舞踏会と呼ぶに相応しいかもな………もしくは、ミュージカルだ』 これまでの彼らの活躍、そしてこの戦争での彼らの役目、働きを、もし誰かが詳細に綴ってみせたなら、それは、きっと歴史的大作になるに違いない 『いっそ、生還出来たならば私が書くか……』 そんなことを少々真面目に考えながら、ラーゲルクヴィストも、持ち場へと戻っていった
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