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そして特務小隊の待機している一室では、ようやくハイゼンベルクへの折檻が終わり、今は、重苦しい沈黙に満たされていた
『……やはり、いくら特務小隊とはいえ、緊張するなというのは無理か』
その沈黙が、この戦争を思ってのものだと、聞かずとも分かった
今までがおかしいのだ
いくら実戦経験があるとはいえ、これから向かうのはそれらとは比べものにならない規模の戦闘
そもそも、特務小隊が今まで行ってきた戦闘行為とは、明らかに毛色が違う
秘密裏の、歴史に残ることのない戦闘ではなく、軍と軍、万人単位で行われる、本物の戦争なのだ
誰がこんな事態を想定出来ただろうか
誰も出来はしまい
クロイツでさえ、軍に復職していなければ、決して知ることはなかっただろう
軍にいた者達でさえ、当事者達以外には知る者はいなかったのだから
そんな状況下で、冗談や揶揄の言葉が出てきたのは、周囲の目があったからに他ならない
特務小隊は、その技能と経験を買われたがために、この戦争で先陣を切らねばならない
そんな自分達が、緊張に震える姿を見せたなら、周囲がどんな反応をするか、火を見るより明らかだ
彼らはそれを自覚し、また自分達のプライドを懸け、恐怖や緊張を押し殺して今まで通りに振る舞ったのだろう
『それだけでも、大したものだ…』
クロイツはそれを、誇りに思う
そんな大した連中を部下に従えていること、共に戦えることに
だから、自分はそんな彼らに見合う隊長にならなければならない
今、そのために出来ることをしよう
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