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「今夜は…帰らないで」
強く抱き締めた彼の細い身体。肌の温度はひどく温かくて、余計に離したくない。
「おん……帰らない…」
彼の言葉に俺は安堵した。
こんな想いの果てに待つものを憶えてるのに、わかってるのに。
先日だって、すばる君は朝になればベッドからも家からも居なくなっていた。
ふたりを招く朝はないから。
『すばる君…好き。まるちゃんが居っても、好きやねん』
『………おん』
でもあの日、えらんだ道は戻れないから。
また先程の様にベッドに二人で潜りこめば、彼はすぐに目を閉じた。
何故か抱き締めてはいけない気がした。彼の小さな手を取り、俺も目を閉じた。
─「すばる君、好きやで」
─「俺もやで」
─「二人で生きていけたらええのに」
─「もう生きとるやん」
─「えっ?」
─「もう俺らは自由やん。好きやで、大倉」
「あっ……ゆ、め…」
夢の中の俺らは、手を繋いでどこか知らない広い草原に居った。
その手の熱まで握りしめて。風の向こうまで、虚しい景色を描くばかり。
叶わない夢。願わない、敢えては。
「おー…やっと起きたか。休みだからってダラダラすんな」
ドアの方から声が聞こえ、視線を移せばすばる君が居った。
朝を二人で迎えるなんて初めてってくらい珍しい。
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