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「すばる君」
そっと手を伸ばし、彼の手を握ろうとした。しかし、その手は避けられてしまった。
「えっ……すば…」
うつむく横顔美しくて、消え去りそうで。
「あっ…ごめん…その…寒いなって思って…だからすばる君の、温もりが、欲しいなぁ、なんて…」
儚い言葉をつなぐばかり。
「すばるっ…」
強引に顔を引き寄せて深いキス。
「あっ…お…くら…はっ…」
もうわからない、なにも。盗まれてこのため息も、どこに消えるん?
「んっ…すばる君」
「もう…帰る」
カバンを持って彼は走り去った。
彼を追いかけなかった。玄関のドアが閉まる音だけ聞いていた。
その場から立って窓に歩み寄った。
外にはすばる君が走り去る姿があった。
「さみしいよ…」
言葉は、たどり着く場所もないまま、閉じ込められた。
マンションの下の木には花が散っていた。
許されるなら花びら舞う空の下で、思いのまま抱きしめたい。
恋はわがままで、さからうほど会いたくて。
だけど今の関係を、まるちゃんとの友情をこわせない。
好きも愛してるも声にできない。
「さみしいよっ…会いたい……愛してる」
胸いっぱいの気持ち。
-END-
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