独リ 笑ウ

3/37
前へ
/628ページ
次へ
―――――――― ゆっくりと意識が覚醒する。頭が重い。 どうやら俺は店のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。 頭を上げると、枕になっていて圧迫されていた腕に血流が勢いよく流れ始め、痺れが走る。 気がつくと寝汗で服がびっしょりと濡れていた。気持ちが悪い。もう冬も近く、汗で濡れた身体が冷える。 ―――見ていた夢でも、こんな感じで腕が痺れて、寒かったような気がするな……。 「あっ、起きましたか?」 「あぁ……睦葉か……。」 睦葉が隣に座って俺の前に水の汲まれたコップを置く。 そして心配そうな顔をして、俺の顔を覗き込んできた。 「……どうした。」 「いえ、うなされてたので。顔色も良くないですし……。」 ゆっくり、ゆっくりと意識が覚醒してきて、ようやく思い出した。 今勤務中じゃねーか。 はっとして店内を見回すと睦葉は笑いながらこう言った。 「ちょっと前まで将監さんが来てたんですけどね。もう帰りましたよ。」 「……マジか……。」 緋金将監。 烏宮神社の神主を勤める俺の古い知り合い。 あまり普段から店に顔を出すようなヤツじゃ無いのだが……。何かあったのだろうか。 まぁいいか……。 また今度俺から訪ねよう。 「貞弘と月弥は?」 そう言えば、姿が見当たらない。 「二人とも先に帰りましたよ。」 「……そうか。」 コップの水を一気に飲み干して立ち上がる。 「よっし、じゃあ店閉めて帰……おっ、と……。」 立ち上がった途端、膝が笑って俺は崩れ落ちる。身体を支配する脱力感。これはそう遠くない過去にもあった。 この前、雑居ビルの階段を落下した時と同じだ。 ……やっぱり血飲まなきゃ駄目かな。 生臭いから嫌いなんだけど。相当ノリノリな時じゃないと飲みたくないんだよなぁ。
/628ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2393人が本棚に入れています
本棚に追加