天空の桜の楼閣

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内臓の浮くような不快感を覚える。エレベーターが軽やかに停止した事を告げる音を奏でる。 1階。 地獄絵図は変わらない。むしろ一番見通しがいいこのエントランスが最も身近に感じやすい地獄かもしれない。 「くっ……。」 一歩踏み出すと腹部に激痛。やはりそう傷は深くないようで、前のめりによろめいた所をサダに支えられる。 「大丈夫か?」 「もう嘘つく必要もありませんしね……ぶっちゃけキツイです……。」 「ったく、早く言えってんでィ。」 サダが私の身体を背中に背負い、早足で出口へと歩いていく。 「睦葉様!大丈夫ですか!?」 建物の外を包囲していた黒天が私を見て駆け寄ってきました。 「腹にいくつか弾を食らってる。急いで治療頼むぜィ。」 「言われなくとも最善を尽くします。」 サダは私を下ろし、ビルの方に目をやった。するとゆっくりと目が大きく見開かれていく。 私もビルを、入口を見た。 その瞬間、アラート音が鳴り響く。 「外出許可の無い被験体を確認。外出許可の無い被験体を確認。」 電子音の声が鳴り響く。ガラスの自動扉がピシャリと閉じる。中にはナナが。 「ナナっ……!?」 心臓が跳ね上がった。 立ち上がって黒天を払い、押し退け、ガラスの自動扉に張り付く。 ガラスに血の手形が付着。必死にガラスを叩くも、割れはしない。 そして。 「消毒を開始します。」 やめて。 ナナがガラスの向こう側で何かを言っているが、聞こえない。 「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」 建物内で、スタングレネードが数十個同時に炸裂したような光が満ちた。当然私の目にもそれは射し込む。 視界は真っ白に染まり、何も見えなくなっていく。 「……う、ううう……。」 強烈な閃光で網膜に焼けついた景色がじんわりと回復していく。 目の前にナナはいない。 足元を見た。 「ああ……あぁぁぁ……。」 積もった灰の山がそこにあった。
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