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強風が駆け抜ける。桜の花が舞い散り、仄かな香りが鉄臭い香りを包み込んでいく。
辺りは血の海、肉の丘。様々な生物の死体が転がる地獄。
その地獄の中心に、その桜は咲いていた。
「来たか、蘭丸。」
そしてその桜の根本に、疲れきった顔をした玉藻が座って待っていた。
「……何なんだ、この桜は……。」
噎せ返る血の臭いに思わず鼻と口を抑える。
「樹木子(じゅぼっこ)だよ。」
玉藻はゆっくりと立ち上がりながらそう言った。散った桜の花弁を手で掴み、それを見つめて。
「生物の生き血を吸って育つ妖木。この世のモノとは思えない程の美しい花を咲かせて見た者を魅了し、回りに集まった人間を喰らう妖の桜。」
そう言った。
「何故あなたはそんなものを」
問い質そうとする月弥の前に手を伸ばして制する。
「何故、か。
なんでなんだろうなぁ。あたしにも分かんねぇよ。ただこの桜が咲いたらどんだけ綺麗なのかっていうのを実際に見て確かめたかっただけだ。」
そうだな。玉藻はそういう奴だ。
「……その為にどれほど人を殺したの?」
「それはお前らの方が知ってるだろ?」
ビルを上がる途中に見た死体の山。それは全てこの木の養分と成り果てたものの残り粕。
「……人を殺すのは嫌だったさ。だけどあたしはどうしても見たかった。いや……"引き返せなかった"んだ。」
玉藻は俯いてさらに話を続けた。
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