ん、誰か来たね。

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 そんな青ざめた顔をされても僕に責任はないし、第一君の炭酸は今に始まったことじゃないだろう。急には死なないさ。  急には………………ね。うん。  時に、君は夏休みの課題は終わらせた……いや、済まなかったね。その顔を見る限り全然終わっていそうにはないね。  僕かい? 全部とは行かないにしても、六割から七割くらいは済ませてあるかな。え? 見せろって?  それは君のこれから僕に見せる態度次第さ。試しに、『時と場合に依る』を英語で………………やっぱりいい。そんな絶望的な顔は止めてくれたまえ。まさかそこまでとは思っていなかったんだ。  蝉の声も、ピークに比べると随分少なくなってきたね。それにしても薫くん、来ないね。  随分君に親しげだったけど……かなり変な子ではあったね。  帽子を目深に被って、まともにあの子の顔を見たことは一度もなかったような気がするけど、君はどう…………お。  噂をすればなんとやら。ほら、向こうから走ってきている。なんと言えばいいのやら。やっぱり男には見えないね。身体の線が細いし、どこかたおやかな雰囲気があるね。  さーて、電車も来たことだし、僕は先に車内で待っているよ。僕がいるとあの子も勘違いするだろうし、何より僕はお邪魔虫な気がするからね。僕のことは構わず、どうか少し喋ってみなよ。  お帰り。本当に少しだったね。あれくらいで良かったのかな? 別に君がよかったなら僕が口を挟む余地なんてないさ。君の問題だからね。  さあ。ドアも閉まって、故郷の景色が横に流れるよ。また来年、君はここに――  なぁ、あれを見たまえよ。さっきの子、帽子を外して何か言っているね。しかも髪は黒くて艶やか。腰にまで達しそうじゃないか。 『ら い ね ん 、 ま た き た ら で ー と し て あ げ る わ よ 』  か。いやいや、羨ましいね。  ん、何をそんな呆然とした顔をしているんだい?   まさか君、薫くんの事を男とか勘違いしてはいなかっただろうね。  やっぱりか。なんとなく、そんな感じはしていたよ。君はそこらに底抜け的に無頓着だからね。
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