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屋上のドアを開けても居ると思った相手の姿はない。
ということは……
僕は居る場所を察し、貯水槽のある上に上った。
すると案の定、居た。
「やっぱりここに居たのか、砕牙(さいが)」
僕の声を聞き、本を顔の上に乗せて眠っていた茶髪の男が僕に切れ長の鋭い目を向けてくる。
「翔……」
最初はこの瞳が正直怖かったけど、今では慣れた。
「またサボって……
留年するぞ?」
「留年しない程度には出てるから平気だ」
砕牙は身を起こす。
そして僕はふと砕牙の手に持っている本に気付く。
「それ……『不思議の国のアリス』?」
砕牙が持っていたのは全くを持って似合わない童話だった。
「ああ……
実は最近皐月(さつき)がはまっててな」
「皐月ちゃんが?」
皐月ちゃんとは砕牙と13歳も年の離れた妹だ。
砕牙はいわゆるシスコンで、実は小、中、高と学校が一緒だ。
そして、僕にも妹が三人居て、両親が忙しかったから、僕とお姉ちゃんの二人でずっと世話をしていた。
そして砕牙に妹が出来たのは中1の頃。
そして、初めて砕牙に話しかけられたのも中1の頃。
妹達と買い物に行っていた時、砕牙に出会った。
砕牙はその時から評判の不良だったから僕は少しビクビクしていた。
妹達を背に庇い
“な、何?”
って問いかけたら
“妹のあやし方が分かんねえから教えろ”
命令形だった。
僕はイラッとした。
だからつい……
“それが人に物を頼む態度かよ!”
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