姉還る

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「でさ、この主人公の飄々とした雰囲気が凄くいいんだ。正直『おいおい?』みたいでさぁ」  僕は向かい合わせに座る女の子に全力トークする。今日のテーマは某ライトノベルの紹介なのだ。でも、ネタバレしたら意味ないから、その辺りは気遣い200%で。 「余程お気に入りなのね、その作品。ふふっ」 「絶対面白いって。超おすすめ!」  瞳細めてふわりと微笑む彼女。傾げた真っ白な小首。その下の折り目の整ったセールカラー。  だが、最もインパクトが強いのは、セーラー服なのに、髪をきちんとまとめてアップに収めるベレー帽。そして胸当ての十字架の校章。  名古屋でも一番のミッション系女子校の証。小学校から大学院まで続く、県内で有数の一貫教育。中でも彼女は小学校からの学園生。そして寮生でもあり、学園名の一文字を取って『純金』と称される、ウルトラスーパーお嬢様である。  一方、僕は普通の公立高校生。一般市民。通称『その他大勢』でしかない。しかも住んでいるのは県庁所在地隣の市のさらに辺境、伊佐坂村という超田舎である。そんな僕が、(略)お嬢様と待ち合わせて、なんて立場なのだ。これこそまさに『大金星』以外の何物でもない。  今も周囲からチラチラと刺す好奇の視線。でも、気になんかならない。 「じゃ、遠慮なく借りるね」 「オッケー。ゆっくり読んでいいからね」  余裕見せる僕に、にっこり笑って席を立つ彼女。ふわりと舞うスカートにまで、僕はドキドキしてしまう。 「あと、明日のことなんだけど。待ち合わせ、栄にしない? 行きたい所があるんだけど」  僕の返事は決まっている。  決めた待ち合わせ場所と時間。微笑む彼女を見送ると、僕は緩む頬を必死でなだめながら家路に就く。  心残りはただ一つ。 (今日も名前、教えてもらえなかったな)  そう。僕は彼女の名前を知らない。  だが、電車を乗り換え、駅から自転車で30分、やっと我が家に着いた僕を待ち受けていたのは、異様な光景だった!
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