姉還る

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 僕の名前は白拍子碧海(しらびょうし あおみ)。伊佐坂村の文化遺産、白拍子神社。その門前宿の長男だ。  でも、跡取りではない。  ウチは代々、女の子が跡を取る。だから僕もいずれは何処かへ婿養子に出るのだが、これは余談。  で、そんな田舎な宿屋に軽トラがびっしり。駐在さんのバイクから、消防団のポンプ車まで。いつも通りお勝手から入ると、大広間が超満員で、しかも沈黙している。 「取り敢えず、可能な限りの装備を設えよまい!議論はそれからやん!」 「総代の言う通りや。それしかなかろ。消防団の装備は?」 「ポンプ車2台。給水は水利組合から許可貰わんと……」 「4tまでならええよ。」 「それより警察とか!自衛隊とか海上保安庁とか!俺達ゃちゃんと税金払っとンだぜ?」 「それが期待できんから議論しとる!次、青年団は!」 「メンバーの大半が60歳以上で『青年団』ってのはのぉ」 「そんな事議論しとる場合じゃなかろが」  『会議は踊る』とか『小田原評定』とか、学校で習った気がするが、こういう状態のことだろうか。 「何だ、碧海じゃねぇか。いつ帰って来た?」  僕を見つけた初老の男性の声に、周囲は一斉に議論を止めて注目してくる。まるで、今まで会議(?)に加わってなかった事を責めるみたいに。  大切な話し合いなら、学校に連絡してでも来させるべきだと思うが、そうは考えないのが大人の我儘な部分だ。 「今。それより何事です?」  僕はその問題を上滑りするつもりで言葉を返す。とにかく、大変な事が起こっているのは解るが、皆目検討がつかない。だから、自分の不在を責められる理由だって解らない。でも、そんな僕を『仕方ない長男』として皆が見ているのだ。正直、居たたまれない。ここでグレても村は許さないだろうけど、世論は同意してくれるぞ。  で? 「鳴海が還ってくる」  鳴海? 「白拍子鳴海。お前の姉だ」  僕に姉が居る、だってぇ?
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