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宿屋の用心棒、長身の拳闘士エリアルは、虚弱な宿屋の憂鬱を理解していた。
幼い時は、母か姉かと膝枕の一つ二つもさせた人形に違いない。
本人は言わないが、想像はできる。
年が明ければ、古い知り合いから預けられた養女共々この街に住んで一年になる。
それは、この宿屋と知り合い、下宿して一年でもある。
最初はきちんと客だった。
だが、色々あって、養女は宿屋の占術の弟子で商売の見習いに。
自分は店の用心棒になった。
もう、部屋代は払ってない。
飯代、そしてかなり飲むが、酒代も請求されない。
天涯孤独の宿屋にとって、エルフの親子は兄と妹のようになったのだろう。
正面切ってエリアルの実力に相応しい用心棒代を払おうとしたら、手持ちの金貨から大幅に足が出るのもあるだろうが。
もっとも、警備隊が優秀なこの街では、エリアルも仕事に不自由している。
ツケの酒代を払えと言われても手持ちがない。
働く宿屋と養女を残し、暇なエリアルは、午前の太陽光が眩しい宿の玄関を出ると、目を細めながら東の区域を目指した。
役所は街の北にあり、南北に走る大通りを挟んで東側に古い職人街がある。
そして、北東に貿易商や冒険者たちが好む宿場街がある。
職人街には、宿屋の大事な人形を直せる職人はいないとわかっている。
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