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夏は終わりに近づいているが、まだ暑い。
宿屋兼下町食堂の若い主、小柄なロックテイル青年は、憂鬱な顔で店前に水を撒いていた。
こんな単純な雑用など、下働きのウェイトレスにさせればよい。
だが、なんだか、そんな気分になれない。
死んだ育ての親で占いと商売の師匠であるフリンが残してくれた財産は、宿屋の建物家財一式と、メイド服を着たグラマラスで背が高い美女人形だった。
メイド人形は、左腕が肘からもげたまま、食堂ホール奥の安楽椅子に力なく座っている。
修理はしようとしたのだ。
国一番の機工士、副総長のモンテーギュに人形を見せた。
モンテーギュは、精巧な生身の人間にも迫るビスクドールに、魔動力で動く円錐形のドリルを装着しようとした。
「バカじゃないの?」
人形に劣らぬ曲線美と、亜麻色の長い髪の姉貴分、魔女シェーラは、白いハンカチに秋色のコスモスを刺繍しながら、にべもなく言った。
モンテーギュは工芸家や芸術家ではなく、発明家である。
頼む方が間違っている。
「人形師か木工の工芸家に頼みなさい」
そんなことは、本当はロックもわかっている。
しかし…
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