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角を曲がった路地奥に、趣がある宿があった。
門構えからして、普段エリアルは入ろうと思わない雰囲気だ。
樫の飾り彫りの玄関を入ったら、ピカピカの革靴を履いて隙無く身なりを整えた初老のホテルマンに
「いらっしゃいませ」
と、惚れ惚れする低音で言われた。
目当ての美術商が現れるまで、さっきの細マッチョ楽師と、ロビーの応接セットに向かいあっている。
手持ち無沙汰は、あちらも同じようだ。
「バートランド、だっけ?
警備隊、てことは、この街長いの?」
男前の、いかにも戦士な男に、水色の髪と眼の中性的な楽師は質問で返した。
「君はこの街に来て浅いのか?」
「市場や停車場辺りでは、結構知られてきたと思うけど
……ああ、俺はエリアル」
「さっき、聞いてた」
言葉は反駁だが、楽師は握手に応じた。
「アリスンと親しいのだな」
「移民するとき、身元保証人になってもらった」
ああ、と、合点した表情で頷かれたので、エリアルはもう2人の身元保証人の名も伝えた。
人間で妻を持つ薬屋ケーニッヒと同族であるエルフの植物学者ヤン。
「ヤンの知り合いだったか」
あからさまに気が抜けた顔になった。
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