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「僕はこの街で生まれて育ったから、同じエルフがいたらなるべく注意を払うようにしているのさ」
先ほどのホテルマンが賄ってくれたコーヒーについている角砂糖だけ口に放り込んで、水色の楽師は言った。
観察するエリアルにとっては、分かりやすくて気負いがいらないタイプだ。
「成人式は?」
「してないんだ」
これもあけっぴろげだ。
「…楽師だろ。エルフの歌は」
「聞こえない」
恥じる風もなく、整った顔をアヒル口に崩して砂糖を味わっている。
無言で自分のコーヒーに付けられた紙包み入りの砂糖をエリアルが押し遣ると、バートランドは砂糖を見つめたまま喜んだ顔になった。
(ううん、ものすごく、わかりやすい…)
普段、天の邪鬼な宿屋や、周りに気をよく回す養女を見ているだけに、新鮮だ。
2つ目の角砂糖を味わいながら、水色のバートランドは言った。
「君も、エルフの成人式は済ませたのか。あれって、やはり行った方がいいものなのか?」
「成人式を済ませなければ、エルフの歌が聞こえないだろう?」
「そうなのか…」
老いた片足の美術商が、秘書に脇を支えられて現れ、雑談は中止された。
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