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種族としての寿命や魔力が少ない人間や、祖国や同族の後ろ盾が無い混血児や孤児は、立場が弱くなりがちである。
ヤンは、エルフの古都エールの長老一族の出身で、ガルトブルグの暮らしは仮の留学のようなものだ。
許婚が家庭を望めば、祖国に帰らねばならない。
しかし、親どうしが駆け落ちで祖国との縁が切れているバートや、祖国は戦争で滅亡しているエリアルは、この街で生涯を終える腹づもりが必要だ。
雑多な種族が住むこの国に対する忠誠心と愛着は、バートランドのような男が最も強い。
そのおかげで、宿屋やアイゼルのような、弱者が暮らしていける。
そんな警備士バートランドに、新顔のエリアルは警戒されたのだろう。
「2人とも、気が済んだかい?」
エリアルは肩をすくめた。
バートは本気なのか最早わからない。
「まるで、僕が彼を怪しんでいたみたいじゃないか」
「…まあ、いいよ、別に」
ヤンは半笑いで受け流しつつ、エリアルの表情を見た。
彼も、あけっぴろげ過ぎていっそ清々しいといった顔だ。
「仕事は?」
「いや、戻らなくては」
楽師は代金を払い、また会おう、と愛想良く去っていった。
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