一身上の都合

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警備隊詰所にアリスンが戻った時には夕暮れだった。 バートランドはノーベルとバイオリンケースを探していた。 「人形亭にあったぞ」 ああー、と手を打つエルフは悪びれない。 髭面の中年は、よっこいしょ、と、下級衛兵も使う長椅子に座った。 パイプに火を付け、旨そうに煙を吐く。 「マリアのとこ行ったのか?」 「あ、いいえ、別件です。 …バート、ケースならエリアルが届けてくれるはずだ」 詰所から出て行こうとした楽師は、戻って来て同じく長椅子に座った。 短足のノーベルは膝を開いて座っているが、股下の長いバートは脚を組んでいる。 見た目真逆の2人だが、この2人より、仲が良い師弟をアリスンは知らない。 「そういや、エリアルに絡んだ男は誰なんですか」 人間とエルフの師弟は互いに見合ってから、師の方が語り出した。 「ロスの育て親で、例に漏れず“師匠”だな。  しかし、錬金でゼノンが教えたことは殆どねぇだろうなぁ…」 ノーベルはパイプをひっくり返して灰を落とし、火を消した。 弟子がジロジロ見ている。 「……?」 「パイプは止めるとレイラと約束したんだ」 弟子の方が言う。
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