15人が本棚に入れています
本棚に追加
―――
――
―
その少女はいつものように、薬草として使える植物を摘むために森の中を歩いていた。
自分の家からそれほど遠くない場所にそれが密集して生えているのを知っていたし、何より幼少から住んでいたこの森は自分の庭のようなもの。
少女は軽快な足取りで木々の間を進んでいた。
(今日は五本だけ摘ませてもらおうっと。
そうしたらそれを……って、あれ?)
考え事をしていた少女が目の前にある少し背丈の高い植物をかさりと音を立て手で除けて通ろうとしたとき、その先の広く開けた場所から微かに話し声が聞こえた。
(珍しいわ、こんなところに誰かがいるなんて)
少し警戒しながら様子を見るために恐る恐る覗くと……
そこには少女の見慣れている一段と大きな大樹に、ゆったりともたれかかりながら座るとても珍しい黒髪の少年と、その周りに動物たちが集まっているという光景がみられた。
少年が楽しそうに片手を少し上げると、小鳥がその手にとまり肩へ他の小動物が駆けのぼる。
彼が好かれているだろうことは明らかだったが、何よりもその神秘的な雰囲気に、彼女は驚き茫然としてしまっていた。
そうして眺めていると、彼の周りに淡く光る何かの存在を感じ取ることができた。
彼は時折それらと会話しているようにも見えるのだからさらに唖然とした。
彼女は知っていたからだ。
あの光るものたちが精霊であることを。
(精霊とお話ができるということは……きっと彼は精霊の仲間か精霊使いなんだわ!)
今まで家の書物で読んだ程度だったが、精霊と人は本来仲が悪いのだ。
詳しくは知らないのだが、その理由は諸説あり、だからこそ目の前の光景が少女には信じられず、そして同時に、中でも精霊を使役できる者が存在するという伝説が脳裏に浮かんだ。
(あの人ならきっと……!)
助けてくれるのではないか?
そんな痛切な想いを抱きながら、彼女は白い髪が勢いで靡くのも構わず隠れていた草陰から飛び出していった。
――
――――
.
最初のコメントを投稿しよう!