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頬に当たる風が心地よい。
そういえば、窓が開けっぱなしのままなんだっけ、と働かない頭で考える。
今は梅雨も終わり初夏と呼ばれる時期。
ああ、そうか……だからこんなにも爽やかな風が入ってくるのか……。
うつらうつらと自分の世界に浸り、風を楽しむ彼だったが、その幸福の時も長くは続かなかった。
「―――ぎり……片桐っ!!」
……それは本当に突然の出来事でした。
「ぅあいたっ!?……はい!」
先生の声の直後、周りで聞いていて爽快なくらい、小気味のよい『ガッ』という音が彼―――名を片桐優弥という―――の頭から発生した。
幸い椅子から落ちることはなかったが、つまるところ、これは先生からのチョークを投げるという有難い説教の証であった。
「お前はまーた授業中に寝てやがったな?」
「あははー、すみません」
寝起きでぼさぼさになってしまった髪をかしかしと掻きながら、優弥は苦笑いをしてみせた。
「反省の色が全く見えないところも相変わらずだな。よし、じゃあ罰としてこの問題を解いてみろ」
そんな彼に一度ため息をついた先生は、若干事務的にも聞こえる口調でそう言った。
優弥が黒板に目を向けると、確かにそこには今日の授業の中で一番難易度の高いらしい数学の問題が書いてあった。
(あ、今の時間、数学だったんだ)
優弥は一人納得して「X=√21です」と答えてさっさと座った。
「……正解だ。お前はすがすがしいくらい頭のいいやつだな」
先生もすでにわかりきっているのか、再びのため息の後、一言呟いて解説を始める。
周りも時折笑っているだけで何も言ってこない。
そう、片桐優弥は俗に言うそれほど勉強しなくても出来る天才なのである。
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