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しばらく歌い続けて、ふと目を開ける。
足音が近付いて来る。
街の方からではない。
霧深き森の奥からだ。
次第に高鳴る胸を鎮めながら歌を紡ぎ続ける。
しかし木々の間から会いたかった人が現れた時には、歌声も止まってしまった。
忘れられない、真紅の瞳と漆黒の髪を持つ青年。
深い眼差しが、じっとこちらを見詰めて来る。
「……また来たのか。この前に迷ったばかりだろう」
その声には不思議そうな響きがあった。
「どうした。忘れ物でもしたのか。見た限りそのような物は無かったが」
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