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溜息を洩らして宿へと帰った時には、日が暮れて暗くなっていた。
宿の女主人は、セレネの姿を見てほっとしたような顔をした。
「ああ、良かった。貴女はご無事で」
「え?何かあったんですか」
いつもと違う様子を感じて尋ねると、相手は表情を曇らせた。
「実は、また行方不明になった娘さんがいて……」
「行方不明?」
「用があって、夕方頃にちょっと街の外に出たっきり帰らないそうなんですよ。此処にいないか訊かれたんですけどね」
話を聞いている内に、何故か胸騒ぎを覚えた。
それは次の言葉を聞いた途端に、更に激しくなる。
「森に惑ったんじゃないかって、ご家族が心配していましてね」
一瞬、眩暈がした。
呼吸さえ出来ない位に、何かが体の中を駆け巡ったような気がした。
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