純愛歌

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心細くて焦りもあって、泣きたくなるけれど。 こういう時、どうしたら良いかは知っている。 いつも、どんな時も。 一人の静寂の不安を、覆い被さる不安の帳を払う方法。 目を閉じて、大きく息を吸い込む。 紡ぎ出すのは、静かな歌。 旅の歌人である身にとって、唯一の道連れ。 何があっても、歌っていれば笑顔を忘れずにいられる。 昔、幼い自分の手を引いて旅をしていた母親は、そう語っていた。 今はもう会えないけれど。 暖かな記憶と歌だけが、心の支え。 例えいなくなっても、歌に込めた想いはきっと残って。 世界を巡り続けるから。
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