純愛歌

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自分自身を励ますように歌い続けて、ふと視線を感じた。 目を開けてそちらを見る。 少し離れた木の影に、誰かが立っている。 変わらず濃く立ち込める霧の向こう、暗闇の中でも真紅の瞳がこちらを見詰めているのが分かった。 「あ……こんばんは」 まずは挨拶をすると、赤い瞳が驚いたように見開かれた。 そしてしばらくしてから、ゆっくりと近付いて来る。 「道に迷ったのか」 問い掛けて来たのは、深く心地良い声だった。 漆黒の髪に、宝石のように光る瞳。 霧の中を歩み寄って来たのは、一度見たら目を逸らせない雰囲気の青年だった。
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