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「お手」
差し出された手のひらに、戸惑いながら、歩み寄ってグーにした手をのせる。
途端、グイッと強く引っ張られて。
私の右手は慶ちゃんのポケットにおさまった。
「さみー。
さっさと帰るぞ」
首をすくめ、慶ちゃんが歩き出す。
「ちゃきちゃき歩けよ。駄犬」
冷たい言葉とうらはらに、慶ちゃんの歩調はゆっくりで。
私のペースに合わせてくれているのが分かる。
その慶ちゃんの優しさが、ものすごく嬉しくて幸せで。
でも、それと同時に
どうしようもなく、切なくなった。
だって、慶ちゃんの優しさは。
私にではなく、ペスに向けられたものだから。
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