2章 傭兵

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旧ALO、現ALOでも間違いなく顔役の一人として挙げられる戦士。 巨大勢力のサラマンダーを、昔も今もまとめあげるユージーンを、このゲームをプレイしていて知らぬ者はいない。 キリトに敗れはしたものの、その実力はALO最強と呼ばれていた。 「これはこれは、またしても大物だ」 さすがのシェイドもユージーンの事は知っているようだった。 だが、ユージーンが赤い眼でひと睨みすると肩を跳ねさせて後退る。 「ユージーンの旦那」 決して背の低くないクラインが巨漢のユージーンを見上げる。 「悪いな。此処は譲ってくれ」 「譲ってくれって……」 あまりにも予想外の頼みに、クラインは目を丸くする。 「あんたはサラマンダーの代表だぞ? 軽々しく決闘なんざしちゃヤベェだろ」 「オレが負けると言いたいのか?」 気の弱い者なら腰でも抜かしそうな威圧感に当てられて、しかしクラインは、ため息と共に肩を竦めた。 「万が一にもさ」 「億が一にも有り得ん」 巌(いわお)のような顔で笑みを作り、クラインを差し置いて前に出る。 「オレとて立場は理解している。が、オレも一人のプレイヤーだ。 たまには思い切り剣を振りたい」 クラインは刀を肩に担ぎ、その背中を見送った。 もはや手を出すつもりはないようだった。 あらゆる意味で誰よりも強い男はしがらみも多い。 そんな男の珍しいワガママならば、聞き入れてやろうと。 「い、いいの?」 心配になったアスナがクラインに尋ねる。 「オレには止める理由はねえ。 おれぁキリトに代理を頼まれたが、絶対オレじゃなきゃいけないとも言われちゃいねえしな」 「でも、もし負けたら……」 「仮に負けても、旦那の信頼はその程度で失う程脆くはねえよ」 今更彼の力にケチをつける輩などいる筈はない。
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