2章 傭兵

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歩み出たユージーンを、気を取り直したシェイドが両の手を広げて迎える。 「ようこそユージーン将軍。 でも本当によろしいんですか? 貴方はサラマンダーの顔役で万が一僕達のような――」 「失せろ。貴様に用はない」 「ひ……!」 ユージーンの威圧に耐えきれず、シェイドは情けない声をあげて引き下がる。 「早く出て来い」 ユージーンは狼牙衆が集まる方を見てそう言った。 どうやらユージーンは、クライン達の知らない例のプレイヤーについて知っているらしい。 狼牙衆の面々は皆、ユージーンの視線から逃れるように左右に割れる。 やがてその中心から姿を見せたのは、木に寄りかかる長身の男。 「貴様か」 シェイド達の反応から、その人物こそが噂のプレイヤーだと知ると、ユージーンは笑みを浮かべる。 「……っ! レオ!!」 シェイドが怒鳴りつけると、男は、やれやれといったように緩慢な動きでユージーンのいる輪の中心までやってくる。 その途中で苛立たしげに待っていたシェイドが一言。 「コイツを潰せ! 徹底的に恥をかかせろ! その為に君を雇ったんだぞ」 態度を取り繕う余裕すら無くし喚き散らすと、仲間のもとへ戻っていく。 改めてレオと呼ばれた男は、長身と言えど流石にユージーンよりは背が低い。クラインと同じぐらいか。 種族は土妖精族(ノーム)。 脚と胸を覆う赤茶色のアーマーも、特に際立った装備には見えない。 ただ、男の凄みを感じさせるのは左眼に縦に走る大きな傷。 ALOは現実の体にある障害を持ち込まないでプレーする事が出来る。 例えば、足に障害を持ち、現実では歩く事も出来ない人であっても、脳からの信号をインターセプトしアバターに送るフルダイブシステムなら、仮想現実内で歩く事はおろか駆ける事も飛び跳ねる事だって可能である。 視力も同じ。スキルによって差が出る事はあっても基本ステータスに差は出ない。 眼鏡をかけている者達も、それはいわば伊達で、おしゃれでしかない。 しかし、レオの傷を負った左眼は完全に閉じている。 瞼を閉じれば見えないのはこの世界でも一緒の筈だ。 それ以前に『傷が残る』なんて事が起こらないこの世界。 傷はダメージとなりライフが減るだけ。 減少したライフとてアイテムや魔法で回復出来る。 だとすれば答えは一つ。 信じられない事だが、男の眼は最初から潰れていた。あの傷は、最初から彼にあるものなのだ。
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