2章 傭兵

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「その左眼、本当に見えていないのか?」 レオを知らない全員が抱いた疑問を、ユージーンが躊躇いなく質問する。 「あぁ」 嗄(しゃが)れた声で応えた。 「こっちの眼はリアルでも見えてないからな、見えるのが逆に気持ちが悪くてそう設定した。 ま、こんなカッコイイ傷はついちゃいないがな」 閉じた左眼をトントンと指で叩き、レオはそう言って笑った。 「そうか。なら」 ユージーンが背に手を回し、巨大な両刃直剣を音高く抜き放つ。 ユージーンの代名詞とも呼べるレジェンダリーウェポン『魔剣グラム』。 「遠慮はいらんな」 剣か、それともユージーンの眼を見てか、レオの顔付きも変わる。 強者にしか感じ得ない何かがあったのか。 「あんた、オレを知ってるのか?」 その質問に、ユージーンが首を横に振る。 「いいや。 友人のカゲムネが貴様と戦って負けた」 「敵討ちか」 「そんなつもりも無い。 だが、そいつが言ったのさ。 『強かった。もしかしたらあの黒い剣士と同じくらい』とな。 だから興味が湧いた」 クク、とユージーンは肩を揺らす。 「オレはあの男と再び戦い、今度こそ勝つ。 だからその前に、貴様で肩慣らしだ!」 「へぇ。お前はあいつと戦った事があるのか……」 口の片端をつり上げるレオ。 「“てっきりこっちに来るだろうから呼んだ手間が省けて丁度良いと思ってた”」 「?」 レオが何を言っているのかユージーン達にはまったく分からなかった。 「遅刻は確定だが、この後に約束があるんでな。 さっさと終わらせてもらうつもりだったが……」 レオが手にしたのは戦槌(メイス)。 ドングリのように片側が尖り、片側が平たい形をした、見るからの重量武器。 武器(エモノ)を確認し、再度レオ自身に視線を戻した時、不覚にもユージーンはこのバーチャル空間で肌が泡立つ感覚を味わった。 ユージーンだけではない。 野次馬に混じっていたクラインやアスナも、“久方振りの感覚”に戸惑いを覚えていた。 「たっぷり味わって比べてみろ。 英雄の剣と鬼の牙、どっちが鋭いか……。 ――――その身でなぁ」 特徴的な八重歯がギラリと覗く。 鬼の牙が解き放たれた。
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