2章 傭兵

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―――――――† 話し終えたアスナは手元の紅茶を口に傾け、ほっと息をつく。 「一応引き分けって事で『狼牙衆』の件はひとまず保留になったわ。……向こうのギルドリーダーは認めてなかったけど」 「だろうな」 結末だけを見れば勝者がレオだったのは違えようがない。しかしルールに則った結果は引き分けなのだから仕方ない。 狼牙衆のリーダー、シェイドは勘違いしているようだが、ALOにおける『剣』のルールは力に任せて何をやってもいいというわけではない。 最低限のルールを守った上で、それでも譲れなかった時、分かり合えなかった時に使う手段だ。 「ユージーンの旦那は?」 「うん。復活してから『悔しい』って呻いてた。けどそれほどショックを受けてるふうじゃなかったよ」 「そっか」 サラマンダーの大将として、少なからず敗れた影響を心配したが、クラインの言うようにそんな心配は必要なかった。 これまで彼が築き上げてきた信頼もプライドも、簡単に崩れるような代物ではない。 それにしても、あのユージーンを圧倒するプレイヤーレオ。状況がかなり違うとはいえ、直接戦った事のあるキリトには信じられない話だった。 しかしそうなるとやはり妙だ。ALOが完全スキル制だから、数値的なウェートが少ないとはいっても、それほどの実力者がこうも無名であるなど有り得るのだろうか。 「……そういえば」 アスナが何か思い出すように言う。 「向こうのギルドリーダーがレオって人に『その為に雇った』とか言って」 「雇った?」 首を傾げる。しかしその言葉に思考を回す直前、聞き知らぬ声が割り込む。 「傭兵さ」 驚いて振り向くと、開かれた扉を背を預けて立つ男を見た。キリトに見覚えはない。 しかし左眼を横断する特徴的な傷を持つその男は、つい今し方のアスナの話のおかげで初対面という印象を打ち砕く。 「レオ……」 アスナが名を呼ぶ。しかしキリトは口に出来なかった。 確かにこの男を見るのは初めだ。間違いない。しかし、この男と出会ったのは初めてじゃない気がする。 この声。この声を自分はどこかで。 ――――茅場 晶彦の事を知りたくないか。 「……あの時の」 昨日出会えなかった声の主は、ニヤリと笑った。
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