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―――――――†
話し終えたアスナは手元の紅茶を口に傾け、ほっと息をつく。
「一応引き分けって事で『狼牙衆』の件はひとまず保留になったわ。……向こうのギルドリーダーは認めてなかったけど」
「だろうな」
結末だけを見れば勝者がレオだったのは違えようがない。しかしルールに則った結果は引き分けなのだから仕方ない。
狼牙衆のリーダー、シェイドは勘違いしているようだが、ALOにおける『剣』のルールは力に任せて何をやってもいいというわけではない。
最低限のルールを守った上で、それでも譲れなかった時、分かり合えなかった時に使う手段だ。
「ユージーンの旦那は?」
「うん。復活してから『悔しい』って呻いてた。けどそれほどショックを受けてるふうじゃなかったよ」
「そっか」
サラマンダーの大将として、少なからず敗れた影響を心配したが、クラインの言うようにそんな心配は必要なかった。
これまで彼が築き上げてきた信頼もプライドも、簡単に崩れるような代物ではない。
それにしても、あのユージーンを圧倒するプレイヤーレオ。状況がかなり違うとはいえ、直接戦った事のあるキリトには信じられない話だった。
しかしそうなるとやはり妙だ。ALOが完全スキル制だから、数値的なウェートが少ないとはいっても、それほどの実力者がこうも無名であるなど有り得るのだろうか。
「……そういえば」
アスナが何か思い出すように言う。
「向こうのギルドリーダーがレオって人に『その為に雇った』とか言って」
「雇った?」
首を傾げる。しかしその言葉に思考を回す直前、聞き知らぬ声が割り込む。
「傭兵さ」
驚いて振り向くと、開かれた扉を背を預けて立つ男を見た。キリトに見覚えはない。
しかし左眼を横断する特徴的な傷を持つその男は、つい今し方のアスナの話のおかげで初対面という印象を打ち砕く。
「レオ……」
アスナが名を呼ぶ。しかしキリトは口に出来なかった。
確かにこの男を見るのは初めだ。間違いない。しかし、この男と出会ったのは初めてじゃない気がする。
この声。この声を自分はどこかで。
――――茅場 晶彦の事を知りたくないか。
「……あの時の」
昨日出会えなかった声の主は、ニヤリと笑った。
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