2章 傭兵

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「………………」 「キリトくん?」 立ち上がり警戒を露わにするキリトに、事情を知らないアスナは心配そうな顔をする。 「オレは奴らに雇われただけだ。邪魔をする奴が現れた時の露払い専門のな」 キリトの反応も意に介さず、訊いてもいない事を話すレオ。 傭兵。クエストや素材集め、もしくは護衛など幅広い依頼を受けるなんでも屋。 例えば、戦闘に不向きな鍛冶屋や商人が、自身では危険のある地帯に素材の調達や物資の運搬等、何らかの理由で行かねばならない時などに利用する。 キリト達もそのような存在を知ってはいるものの、SAOでもALOでも攻略組に属するようなプレイヤーだったので利用した事は一度もなかった。 「何故昨日現れなかった?」 キリトの質問に、レオは肩を竦める。 「オレも驚いた。まさか同じ日同じ時間に、お前さんとの決闘が入るなんてな。 まあ、てっきりお前さんなら決闘を手早く済ませてから約束の場所に来ると思って手間が省けたと思ってたんだが……」 黄土色の前髪の隙間から、右眼がキリトを捉える。 「自信がなかったのかい?」 キリトの背にゾワリと怖気が走った。視線から、言葉から、レオの放つ空気そのものが重くへばりつく。 「あのデスゲーム(SAO)を解放した英雄キリトが、たかだかこんなくだらないゲームのプレイヤーを一瞬で叩き伏せる自信がなかったのかい?」 パアン! と空気が震える。キリトを追い抜かしたアスナが、その右手でレオの頬を叩いていた。 「くだらないゲームですって? 何も知らないあなたにこのゲームをそんなふうに言う資格なんてないわ」 鋭い目つきで言い放つ。 この世界を素晴らしいと言ってくれた、旅の終着だと言った親友の生きていたこの世界の侮辱をアスナは決して許さない。 叩かれた勢いで首を九十度回していたレオは、唇に舌を這わせ、回った首を戻しながら左手をアスナへと―― 「アスナに、何をするつもりだ……」 伸ばされた手はアスナには届かない。間に割り込んだキリトがその手を掴み、ギリリと締め上げる。
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