356人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
十メートル足らずの距離なんてキリトのスピードをもってすれば一瞬。その一瞬の間でも相手の観察は怠らない。
だがレオは動かない。キリトの接近に対して、向こうは迎え撃つつもりなのだろうか。
間合いを半分以上潰してようやくレオが動く。
武器であるメイスを両手で掴むと、足を前後に開き左肩に背負うように振りかぶる。背中がこちらに向く程体を捻る。
レオは完全な迎撃体勢。一瞬をさらに分割した時間でキリトは戦法を思考。
(どちらにしても長引かせるつもりはない!)
キリトは戦法を変えず突進。
敵はメイスの振り下ろしを狙っている。遠心力の乗ったメイスの振り下ろしは確かに威力が高いが、攻撃の前後の隙が致命的。
軌道を見極め、左右どちらかに躱した後、攻撃を入れる。
そこまでシミュレーションを終えたキリトの眼は、半分しか見えないレオの口元が笑ったのを見た。と同時に、メイスの槌部分が横に寝かされている事に気付く。
(しまっ――)
「シャラアッ!!」
キリトの視界が横にブレる。ゴロゴロと横に転がり、すぐさま体勢を立て直す。
HPバーがぐいっと減少。一瞬早く気付いて剣でガード、さらに攻撃を受ける方向に自ら跳ぶ事でかなり威力を減らした筈なのに、ごっそりともってかれた。
振り下ろしと見せかけた薙払い。
よくよく考えてみれば、レオはSAO生還者。それもユージーンを圧倒する程の実力を持つ男が、メイスの弱点に気付いていない筈がない。
甘かった。大甘だった。
手早く決着をつけようなどという驕りがこの様だ。
短く息を吐く。酸素を必要としないこの世界でまるで意味のないこの行為が、自分を切り替える時のキリトの癖だった。
切っ先をだらりと地面に足らす。レオは、ゆっくりとキリトに正面を向き、再び同じ構えを取った。
キリトはゆるりと重心を前に倒し、凄まじい加速を見せる。
先程よりも更に速い。
それなりに腕の立つプレイヤーでさえ眼で追う事を許さないキリトのスピードだが、やはり、いや当然というべきか。レオは動じない。見えている。
それでもキリトはスピードを緩めず、むしろ更に加速する。その中でも目に映る情報を回収。
今度はメイスにも意識を向ける。構えは変わらない。槌も今度は上を向いている。
振り下ろし。ならば、左右に躱して攻撃。
「シャアア!」
再び裂帛の声と共に、今度こそ槌が縦に動く。但し今度はその槌に光を灯して。
最初のコメントを投稿しよう!