愛しき日々

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桂「どういう意味だ?」 「桂さんには、まだお話していませんでしたね」 須王は 聞かせた。『不平等条約』が 来年締結される事を。 「ここから、火蓋が切られたと言っても、過言ではない。 一度 締結してしまえば、我も我もと、次々 列強が我が国に 押し寄せて来る。 何故、『不平等』と言ったか? この条約が ある限り、異人達は 我が国で どんな 悪い事をしても、我が国の法では 裁けないのと、 関税率の操作で 貿易において 不当な利益を得、 それによって、我が国の 物価は高騰。我々市民の 生活は困窮の一途。 まだ あげれば色々ありますがね。そういった、馬鹿げた 内容の条約を幕府は ほいほい 受けてしまったのだよ。 相手の意の儘に、天子様の許しを得ないでね」 何回聞いても 胸糞悪い。晋作達は、苛々する。その様子を見て須王は 「そんな 弱腰外交をした幕府を見て、攘夷派が黙って 指をくわえて見てると思いますか?」 桂は暫く黙って考えを巡らし、 成る程な。先程の言葉の意味を理解した。攘夷運動が 高まれば高まる程 『尊皇倒幕』へと結び付く……。我等の長年の夢が叶う。 桂は ニヤリと口角を上げるが 須王は 「その行いこそ、悲劇の発端となるのだ。 お前達は 遣り過ぎて、逆に 幕府によって窮地に 立たされる おまけに、天子様からもな。天子様が我等を裏切る筈など 絶対にないと不服そうだな? 確かに、天子様は熱烈な 攘夷派だ。だが、あくまで政治形態を変えてまで 実現しようとは 思っていない。 だから、お前達が暴れる 程 目障りな存在に なってくる ご理解頂けたかな? 『驕れる人も久しからず ただ 春の夜の夢の如し…』ってね」 須王は、妖艶な笑みを浮かべ、桂を見ると 「どういう意味だ…」 怒気を孕んだ声で 須王を睨み付けると、 さて……なんの事やら…… 。と 含み笑いをし、 「我の言の葉に 抗うも良し。身を委ねるも良し。 全ては 心の儘に、ね…」
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