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「ご、ごめんなさい!」
カバンの次に、ようやくその声の主が姿を現した。
取り敢えずカバンを拾い、軽くパンパンと叩いてやる。
「大丈夫ですか?」
陽向「ああ……目を疑っただけだ。気にするな」
「――あ、赤くなってる……」
陽向「えっ?」
そう言うと、彼女はそっと俺の頬に手をあてた。
背伸びをしてるのか、見上げる彼女の顔が近い。それに、触れてる手――じゃない!
陽向「大丈夫だっての。……ほら」
心配そうに触れてた彼女の手を離し、その手にカバンを持たせた。
それでもまだ気になるのか、「ん~」と唸り、顎に手をあてる。
大丈夫だと言ってるのに、一体何を懸念してるのか……
「――決めた」
陽向「決めたって、何を」
「私、陽向君と一緒に帰る!」
陽向「は!?」
「先に昇降口で待ってて。友達に断っておかないと」
陽向「なっ――行っちまったよ」
ポツンと取り残されたので、俺は渉と顔を見合わせた。
陽向「何なんだ一体……」
渉「さあ?音成に任せてみようぜ」
陽向「オトナシ?名前か?」
渉「そう。音成 奏(おとなし かなで)。紡刻島長の一人娘にして、島イチの美少女さ」
陽向「音成、奏……」
――まあ、確かに可愛いかったな……
不謹慎にもそんな事を考えていた。
――これが始まり。
俺と奏の初対面は、わずか1分ほどの邂逅だったんだ。
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