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「では、銀獅子丸よ、昼過ぎに私の所へ。」
そう言いつけられ、その日の午後に黒龍の自室を訪れた銀獅子丸は、黒龍ではなく屈強な男に出迎えられた。
「黒龍様は中庭で待っておられる。ついて来なさい。」
男に連れられ板張りの渡り廊下を歩きながら、銀獅子丸は背中越しに彼を観察した。
大きな男だ。背丈は自分の頭二つ分は高い。服で覆われているが鍛え上げられた筋肉質な体つきということがわかる。
歳は自分よりも一廻りほど上だろう。
無言で中庭へ到着すると、敷石の上に立った黒龍が腕組みをして待っていた。
「来たか。」
黒龍は、うやうやしくひざまずいた二人に互いを紹介した。
「銀獅子丸、この男は帆鷹(ほたか)。日頃私の護衛を務めている。」
黒龍から紹介されると、帆鷹は軽く会釈をした。
「帆鷹よ、銀獅子丸は宝物殿の番人をしているのだが、ある事情で今度の旅におぬしの代わりに同行させようと思っている。
しかし、今日会ったばかりで私にはこの者の強さがわからない。したがって、手合わせしてもらい、実力を確かめてはくれぬか?」
「え・・・?」
「かしこまりました。」
先に声を上げたのは銀獅子丸だった。帆鷹は下を向いたまま答えている。
「なんだ?不満か?」
「い、いえ・・・突然だったもので・・・(聞いてないよ・・・)。
仰せのままに。」
黒龍に苦笑いで返すと、満足そうに頷き、「では始めてくれ。」と二人から少し離れた所へ移動した。
白い砂利の敷き詰められた中庭に、二人が対峙した。
心なしか帆鷹の表情が先程より険しい。
「では銀獅子丸とやら、始めようか。」
「はい。」
「勝負は剣の一本勝負。ただし、ここは宮中なので木刀を使用する。どちらかが参ったと言うか、黒龍様から指示があれば終わりだ。」
帆鷹は、ヒュンと音をたてて銀獅子丸に木刀を投げた。
「わかりました。」
銀獅子丸は受け取ると早速構えた。
帆鷹も静かに木刀を構える。
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