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「銀獅子、何をぼーっとしている。
で、旅の準備はできているのか?」
黒龍に話しかけられ、回想からふと我に返った銀獅子丸は、部屋に用意しておいた麻袋に目をやった。
あの帆鷹との対戦後、銀獅子丸は皇子から旅の準備をすべてしておくよう言いつけられていたのだ。
「はい、ここにございます。」
麻袋を目の前に出すと、黒龍は目を見開いた。
「これだけなのか?」
旅が初めての黒龍にとってはその荷物の少なさは衝撃的だったようだ。
「はい…、あまり多くは持てません。歩きの旅ですから。」
必要最低限のものしか持つことはできない。
「そうか。」
あまり気にしない性格なのか、皇子はそれ以上聞かなかった。
その後、水を入れるための皮の袋を腰から下げ、いつも着ている絹の美しい衣装ではなく、できるだけ庶民と近い綿の衣に着替え、旅の支度を整えた二人は、女帝や臣下たちに見送られ宮殿を後にした。
「どうか無事に帰ってきておくれ。」
心配そうに見つめる母に、黒龍は何も言わずに自信に満ちた笑顔で頷いたのだった。
ーーかくして、二人の旅は始まった。
運命なのか偶然か、一介の宝物庫の番人から皇子の護衛に抜擢された銀獅子。
旅は道連れ、世は情け。
皇子にとっては…
銀獅子は、
旅の道連れ。
世は我が意のままに。
ーーなのかもしれない。
ーーけれども、この旅の果てに、まさかあのような結末があろうとは。
この時黒龍は想像すらしなかった。
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