旅の道連れ

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「はい。お告げでは、月読の社へ精霊刀を納めよとのこと。 そうすれば、都に現れる魔物は消え去ると・・・。皇子として、私が責任を持ってお納めします。」 「そうですか・・・。 お前は幼い時から責任感の強い性格。そして、一度言い出せば母の意見とて聞き入れないことはわかっています。 どうしても行くというなら快く送り出す他ないでしょう。」 女帝は、目を伏せてため息をついた。 一人息子を旅に出すのを不安に思うのは、母として当たり前のこと。 黒龍はそれを悟ってか、気持ちをなだめるように落ち着いた口調で続けた。 「これを帝の勅命としてお申しつけくださいませ。 この旅が成功したあかつきには、宮中の者も私を次代の帝として認めるでしょう。すぐに信頼を得られずとも、その礎にはなるはずです。 そして、この剣の達人である銀獅子丸が共についてきます。ご安心くださいませ。」 「銀獅子丸?」 女帝はようやく息子の後ろに控える青年に目を向けた。彼は今だ深く頭を垂れたままだ。 宮中で銀獅子丸の姿を目にした覚えはなかった。いや、これだけ多くの宮仕えがいる中では記憶に残る者の方が稀だ。 「どこに勤める侍です?」 女帝の質問に、黒龍が銀獅子丸を振り返ってから答えた。 「宝物庫の番人でございましたが、その剣の腕を買い、私が旅の連れとして召し抱えることにしました。」 「そうですか。銀獅子丸よ、面を上げなさい。」 女帝の言葉に、青年はゆっくりと反応する。 年は黒龍より少し上であろう。 整った顔立ちに、剣豪とは思えない、柔らかな眼差し。引き締まってはいるようだが、体つきも特に逞しさを感じない。 「剣のことはよくわかりませんが・・・供の者は一人ですか?」 女帝は思わず息子に問い掛けた。 「はい。あくまで密命ですので宮中の他の者にも知られないよう二人で出発いたします。 ・・・母上、私の人を見る目は確かです。ご安心なさいませ。」 「そうですね、わかりました。 では・・・、銀獅子丸、くれぐれも黒龍を頼みます。」 「はい、命に代えても必ずお守りします。」 銀獅子丸は、女帝に改めて姿勢を正し、深々と頭を下げた。 二人が退室すると、女帝は静かにつぶやいた。 「月読の社・・・。何もなければ良いが・・・。」
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